(R.3.12.05記)
安全保障の基礎V
                           防人と歩む会 顧問(前理事長) 渡邉秀樹

 今回は、日米安全保障条約と国連の関係についてです。
国連は役に立たないから日米安保さえあればよいという意見がかなり浸透していますが、日米安保も国
連の枠内に位置付けられているので国連か日米安保かという二者択一の問題ではないということを説明
します。

 日米安保条約のキーワードは前文にある「国連憲章の目的及び原則を再確認し」と「極東における国
際の平和と安全の維持」そして第5条にある「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に
対する武力攻撃」、「執ったすべての措置は、直ちに安保理事会に報告」と「安保理事会が必要な措置
を執ったときは、終止しなければならない」などです。

 尖閣諸島は日米安保の対象になるかと最近は首相が変わるたびに米大統領に確認していますが、米国
が同意しても安保理事会に報告して承認されなければ、米国は日米安保だけで集団的自衛権を行使する
ことはしません。この点米国は厳格です。イラク戦争の際、ブッシュ政権は何度も何度も国連決議を求
めて、決議の範囲内で武力行使したことが強く記憶に残っています。米国といえども錦の御旗は必要な
のだなと思ったものです。
 国連が役に立たないと言っても、現行ではこれに替わる国際組織はありませんので、大義名分を得る
ため国連を常に味方にできるように備えなければなりません。そのためにインド洋や中東方面に艦艇や
航空機を派遣しているのです。
 11月例会の第2艦隊の話と国際連盟脱退後の大日本帝国の歴史を思い起こして下さい。

   次は日米安保について誤解の多い点です。「米艦防護」と言う言葉があります。新しい安保法制で、
行動を共にしている米艦が攻撃された時、米艦を防護することができると定められました。それを日米
安保の集団的自衛権の行使だと思っている人が多いです。
 しかし、台湾有事の海域や中東方面の海域においての米艦防護は日米安保の枠外であることはもうお
分かりかと思います。それらの海域が日本国の施政の下にはないからです。
 では何を根拠にできますか。そのとき国連が何らかの集団安全保障措置を執っていれば、日米安保条
約ではなく、国連の活動への参加ということが法的根拠になります。それは米艦に限らず英艦でも豪艦
でも全てに適用されます。

 したがって、日米安保さえあればという意見には賛成しかねます。国連の方がより重要で、国連が役
立つように改革を進めることを外交の中心にすべきだと私は思います。

(参照)
【日米安全保障条約】
前文)日本国及びアメリカ合衆国は、----------- 国際連合憲章の目的及び原則に対する信念並びにす
べての国民及びすべての政府とともに平和のうちに生きようとする願望を再確認し、両国が国際連合憲
章に定める個別的又は集団的自衛の固有の権利を有していることを確認し、両国が極東における国際の
平和及び安全の維持に共通の関心を有することを考慮し、相互協力及び安全保障条約を締結することを
決意し、----------- 

第5条 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国
の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険
に対処するように行動することを宣言する。
 前記の武力攻撃及びその結果として執ったすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従って
直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和
及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執ったときは、終止しなければならない。


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